江陵(カンヌン)市旺山面(ワンサンミョン)の大基里(テギリ)、魯鄒山(ノチュサン)の麓の渓谷沿いに、人の背丈ほどの石塔がどこまでも並んでいます。ひとりの母親が1986年から亡くなる2011年までの26年間、たったひとりで積み上げた約3,000基の石塔です。有名なお寺も展望台もありませんが、ひとりの人の手がつくった風景だという事実だけで、渓谷全体がいつもと違って見えてきます。
石塔を積んだのは、ソウルから江陵へ嫁いできた車玉順(チャ・オクスン)さんです(資料によっては「車順玉」とも記されています)。4人の子どもを授かったものの、2人の子どもを先に亡くし、夫も病を患うなど、家庭に不幸が続いたそうです。そんなある日、夢に山の神が現れ、渓谷に石塔を3,000基積めば家が安らかになると告げたと伝えられています。
おばあさんは石塔を積む場所を探し歩き、1986年に「天の下の最初の村」と呼ばれる大基里の魯鄒山の渓谷に居を定めました。その後ここに暮らしながら、石を選んで一つひとつ積み上げ、2011年に亡くなる前に3,000基を満たしました。テレビ番組で話が知られるようになり、母の真心を意味する**「母情塔の道」**という名前が付きました。
2016年1月、山林庁はこれらの石塔を**国家山林文化資産「江陵 魯鄒山 三千母情塔」**に指定しました。個人がつくった民間信仰の痕跡が、森の文化遺産として認められた珍しい例です。
魯鄒山は、江陵市と旌善(チョンソン)郡にまたがる山です。名前は、孔子の国・魯と孟子の国・鄒に由来します。新羅の薛聡(ソル・チョン)と朝鮮の栗谷 李珥(ユルゴク・イ・イ)がこの山に入って学んだと伝えられ、山中には二人をたたえる二聖台(イソンデ)があります。石塔の道は、この山の北側の渓谷の下流側を歩く道で、山頂を目指す登山とは性格が異なります。