野原のはずれ、低い山の麓に、石垣をめぐらせた古い瓦屋根の家が一軒あります。映画『リトル・フォレスト』(2018)で、主人公のヘウォン(キム・テリ)が都会暮らしをやめて戻り、四季を過ごした家です。セットではなく本物の田舎の家で撮影され、台所や縁側、庭が映画の場面のまま残っているので、映画を観た方ならどの場面かすぐに分かります。
イム・スンレ監督は、セットでは人のぬくもりが感じられる空間を作りにくいと考え、本物の家を探しに出ました。制作チームは最初、四季がはっきりした江原道(カンウォンド)を回りましたが、旬の穀物や果物が手に入りにくく、景色のいい場所はすでに観光地になっていることが多かったそうです。そこで、慶尚北道のある村で、築70年の木造の離れを見つけました。広い庭と歳月を刻んだ石垣、赤い実のなった柿の木3本、野原に向かって大きく開いた窓と縁側を見て、監督とスタッフはその場で決めたといいます。美術チームは、古い家の雰囲気を生かしながら、20代のヘウォンの感性がにじむように家の中を飾りました。
ヘウォンの家がある美城里(ミソンニ)は、軍威(クンウィ)郡牛保面(ウボミョン)の静かな農村です。軍威郡は2023年7月に慶尚北道から大邱広域市に編入され、現在の住所は「大邱」から始まります。映画が四季をすべて収めたように、ここも季節ごとに風景が変わります。春は田植えをした田んぼ、夏は濃い緑、秋は黄金色に実った稲、冬はがらんとした野原と石垣が、映画の場面と重なって見えます。