全羅北道(チョルラブクト)の高敞(コチャン)と全羅南道(チョルラナムド)の長城(チャンソン)の境にそびえる文殊山(621m)。その中腹、文殊寺へ向かう最後の道の両側を、数百年を経たカエデがびっしりと覆っています。高敞 文殊寺のカエデ林には、樹齢100〜400年と推定されるカエデが約500本生えており、長くお寺の森として守られてきたことから2005年に天然記念物に指定されました。葉が小さく色の美しい、いわゆる「アギタンプン(小さな紅葉)」が色づく晩秋には、短い山道が一面の赤に染まります。
森は、文殊山の入口から文殊寺の入口へと続く約80mの参道の両側に広がっています。距離は短いものの、木の大きさでよく知られた森です。胸の高さでの直径は30〜80cm、高さは10〜15mほどで、胸高の幹回りが2mを超える古木が何本もあります。いちばん太い木は幹回りが2.96mにもなります。
保護区域は約12万㎡で、カエデの間にはイタヤカエデ、コナラ、クマシデ、クヌギ、エノキ、ケヤキなどの大木が交じっています。その下にはミズキやハクウンボク、ムラサキシキブといった低木が育ち、地面にはササが広く茂っています。こうした森が残ったのは、文殊寺の寺林として代々守られてきたからです。
文殊寺(ムンスサ)は、百済の義慈王の時代に建てられたと伝わるお寺で、創建年は資料によって643年または644年とされています。新羅の慈蔵(チャジャン)律師が唐の清涼山で修行して帰る途中、この山が清涼山に似ているのを見て、岩窟で祈っていると地中から文殊菩薩像を得て寺を建てた、という創建説話が伝わっています。大雄殿と文殊殿、木造三世仏像、木造地蔵菩薩坐像、浮屠(高僧の墓塔)などが全羅北道の有形文化遺産に指定されています。大雄殿と文殊殿のほかに、冥府殿や寒山殿といったお堂もあります。山奥のお寺なので、紅葉の時期を外せば静かに境内を巡ることができます。森の道が終わるところから寺の庭に入ると、いま通ってきたカエデの森が、お寺を囲む垣根のように見えます。